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白珠の巫女番外編 親愛なる友へ chapter.3

地味に書いてます。

『親愛なる友へ chapter.3』


 騎士隊の入隊試験を兼ねた剣術トーナメントは、フェデリア王都では一種のお祭りだ。
 精鋭揃いで知られ門戸の狭さでは指折りのフェデリア騎士隊に、剣術の腕一本で入隊できる、一年でただ一度の機会。原則として料金を払えばだれでも観戦ができるため、夢いだいて全国から集まる剣術自慢とその身内だけでなく、彼らの激しい戦いを観るためにやってくる者とで、この時期王都はごった返す。闘技場周辺はそうした客を相手取る物売りの声は絶えず、表向き禁止されている大会を対象とした賭博行為もそこここで盛んに行われ、それらを楽しみに入場券を持たない地元の人々も訪れるというわけで、他国からは神秘の国と呼ばれるフェデリアの王都も、この日ばかりは大衆的な雰囲気に包まれるのが常だった。
「うわー、すっごいなー」
 熱気に包まれる闘技場を見まわした友人の感嘆の声に、十三歳のエドマンド=ウィリアム=カートネルは言葉もなく頷いた。
 この日の剣術大会を楽しみにすることでは貴族階級も庶民と変わらない。貴族専用のボックスも闘技場には多数設けられており、社交界の延長として庶民層とはまた異なる雰囲気で大いに盛り上がる。昨年までのエドマンドは父公爵が所有するそうした貴賓席のひとつで、挨拶に訪れる父の知人たちに利発な笑みを振り撒きつつ遠目に見える剣術試合を楽しんだものだったが、今年は特別だ。耳に入るのは上品な会話やさざめくような笑い声の代わりに、一杯飲んだ上機嫌のだみ声、調子の外れた歌、物売りのはりあげる声に、始まる前から飛ばされる野次――すべてが新鮮なものばかりで、粗末な衣服に身を包み、同様の身なりをした友人たちとともに貴賓席の数百分の一の金銭で手に入る安い立見席にもぐりこんだエドマンドは、満足の笑みを深くした。これこそが、長兄とその親友の武勇談を聞いてからというもの憧れていた「ほんものの剣術大会」の空気。数ヶ月も前から根回しをすすめた甲斐があったというものだ。
 温度さえ違って感じられる空気を深く吸い、どきどきと高鳴る胸を押さえるように、腰に帯びたナイフを幾度目かに確認する。愛用の細剣は今の身なりには不釣り合いなため置いてきていた。いかにもなおのぼりさん風の見かけを自覚するだけに、警戒心とは無縁でいられない。幼少期から厳しく仕込まれた剣術には自信があるが、人数や体格にものを言わせて襲いかかられたら終わりだ。もちろん場内には帯剣した近衛兵も多く立っているが、己の身は自分で守るに越したことはない――
「あれえ、エディ?」
 そんなことを考えていたところ、自分の名を呼ぶ声にエドマンドは肩を揺らして振り返った。
 数列後ろでひらひらと手を振る少年、否、
「クリスぅ!?」
 名を呼び返す声が裏返ったのは断じて自分の度量が狭いせいではない、とエドマンドは誰にともなく主張したい気分だった。
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