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休暇(白珠の巫女番外) /書きかけ原稿の墓場より

ずいぶん前に途中まで書いて放置していたもの。
『休暇 ――白珠の巫女番外編――』

 フェデリア騎士隊員セシル=カートネルが、上官であり恋人でもあるクリス=スタインと同じ日の休暇を取ることができたのは、入隊してから実に半年がすぎた頃のことだった。

   * * *

 フェデリア騎士隊は入隊の基準も厳しいが、入隊後の訓練はさらに厳しい。レイピア剣技は当然として、弓矢や銃をはじめとしたありとあらゆる武器の扱い、徒手格闘に馬術、自国及び周辺諸国の地理歴史に宮廷の勢力図、王族貴族の名前と顔と血縁関係、はてはダンスに礼法に言葉遣いまで、多岐にわたる技能・知識を叩き込まれる。
 かつて巫女を務めていた間にクリスの個人教授を受けたおかげで、同輩たちよりずいぶんと楽をした自覚はあるが、それでもセシルにとってこの半年間はひたすらにめまぐるしく過ぎたという感想しかなかった。加えて、もともと仕事中毒の傾向のあるクリスは分隊長に昇進して以来ほんとうに仕事まみれといった風情で、せっかくの休暇も自分から潰して働いていることが多い。そんなふうだったから、会話といえば偶然顔をあわせたときにひとことふたこと言葉をかわすほかは、みな寝静まった隊舎をそっと抜け出して、月明かりの下でほんの一刻、声をひそめて語り合うくらいしか機会はなかった。――それすらも、残業や出張や早朝訓練がなければという条件付きだったが。
「騎士になれたのは、それはとても嬉しく思っているけれど」
 並んで厩舎の壁にもたれながら、セシルはぽつりと切り出した。
「あんまり忙しくて、少し寂しくもありますね」
「……毎日、会ってるよ?」
 クリスは苦笑を唇に刻んだ。彼女はセシルにとっては直属の上官にあたる。新人はひとくくりに訓練所でしごかれるから、分隊単位での活動には参加しない日も少なくないが、それでも朝夕に召集されるたびこの恋人である女性騎士の顔を見られるのは確かだった。
 ……顔を見、声を聞く以上のことではないのも、また、確かなのだが。
「そうですね。でも、私は欲張りだから」
 言いながらセシルはクリスの蜜色の髪を指先にからめとる。日中はきりりと束ねられている、女性にしては短い金髪はいまは肩をふうわりと覆っていて、それが彼女の印象を少しだけやわらげていた。
 右手の指にくるりと巻いたその髪に、身をかがめてくちづける。
「――こういうことを、ね」
 ふふ、と息だけで笑って、セシルは上目遣いに見上げた。
「まさか仕事中にするわけにもいかないでしょう?」
「エーアー」
 もう使われなくなった名を呼んで、低く抗議する語調はけれども弱い。そのまますっと顔を寄せて、ついばむように唇に浅いキスを落とすと、上司兼恋人は素直に目を閉じた。

「徒手格闘、大剣、槍、それと古アゼリア語」
 指を折って数え上げると、クリスがひょいと片眉をあげる。
「あとそれだけ? ……がんばってるんだ」
「もちろん」
 貴方に追いつくためですから、そう言ってセシルはにっこり笑う。
 入隊を果たしたといっても、数多くある訓練科目のすべてに合格するまでは、騎士見習いのようなものだ。合格科目を増やすたびに実際の任務に加わる機会は増えはするが、それも騎士としての働きを近くで見て学ぶためという意味合いが強く、騎士の象徴と言える緋のマントの着用も許されない。
 見習いからひよっこ騎士に昇格するまでにかかる年月は、平均しておよそ一年というところだ。半年で残り四――その四科目もあとほんの少しで卒業というところだ――というセシルは、同期の中だけではなく、毎年の例を見てもかなり駆け足のほうだった。
 ちなみにここ十年での最短記録保持者は他でもないクリス=スタインその人である。教官からそのことを聞かされた時には、自分の恋人となった女性騎士の才能と情熱のほどを改めて思い知らされ、少しばかり遠い眼になったものだ。
「そうだ。がんばっているご褒美をもらえませんか?」
「……ご褒美?」
「ええ」
 怪訝そうな顔のクリスの、月明かりの下では深い藍の色にも見える瞳を、微笑を絶やさないままにセシルは覗き込む。
 出逢った頃には見上げていた瞳は、いまはほんの少しだけ低い位置にあった。
「貴方の一日を、私にください」
 それから四半刻も言葉を並べ、クリスから出された条件通りに合格科目を更にひとつ追加し――そうしてセシルは、半年目にして初めての、二人で過ごす休暇を獲得したのだった。
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